家に帰って鍵をかけると、雅孝はすぐ風呂場に向かった。
トレーニングウェアや下着をひとまとめにして洗濯機に放り込み、
頭からシャワーを浴びる。
ひきしまった白い身体はすぐ熱い湯に包まれた。
汗と、汗ではない体液が勢いよく洗い流され、
足元の排水溝に小さな渦を巻いて吸い込まれていく。
その水流をぼうっと眺めているうちに、ほんの一時間前に道場で起きたことが
本当にあったことなのか、あいまいになってくる。
『あんたが好きだ』
太い声が耳元に蘇った。
同時に、下肢をまさぐる手をリアルに感じて腿や下腹部が熱くなる。
「……っ」
雅孝は浴室の壁に頭をぶつけた。
後輩にいいようになぶられ、犯されかけたというのに。
今、雅孝の身体はその記憶を快感として反芻している。
「あ……」
熱が一箇所に集まっていく。今日初めて他人の手で愛撫されたそこは、
再び刺激を求めて息づきつつあった。
声をあげて達してしまったことだけでも充分恥ずかしいというのに、
これ以上情けない思いはしたくない。
だが懸命に意識を逸らそうとすればするほど、そこは鋭敏になっていった。
ためらった末、雅孝はシャワーを止めた。
浴槽のふちに腰かけ、自身を軽く握った。それはもう半ば以上勃ちあがり、
刺激を待ちわびている。雅孝はため息をつくと、親指と人差し指で皮を剥いていった。
露わになるところからピリピリとしたむず痒い感覚が走る。
「くぅ……っ」
上下にしごくと快感の波が押し寄せてくる。足の親指に力が入り、
無意識に内側に曲がっていた。
「んっ……ふ……」
家には誰もいないが、していることの後ろめたさが雅孝を小声にさせる。
濡れた体は冷えるどころかますます熱くなる気すらする。
雅孝は露をにじませた先端をそっと撫でた。普段隠れているその部分は
指先にわずかに力をこめただけでも、身をよじるほどの刺激を伝えてくる。
「あっ……あっ、んっ」
内腿から膝にかけて、なめらかな皮膚がぶるぶると震えた。絶頂が近い。
そこに押し当てられた肉の熱さと質量を思い出すと同時に、
雅孝は小さく声をあげて達していた。
「うぁっ……!あ、あっあぁっ……」
おさえた指の間から、床のタイルに白いものが垂れていく。
ぬるい体液は広げた足のさらに奥まで伝わり、
内側を蹂躙された苦痛と恥ずかしさをまざまざと呼び起こす。
「……何やってんだよ、俺……っ」
自己嫌悪に目の前が暗くなる。
最悪だ。雅孝はそうつぶやいてのろのろとシャワーに手を伸ばした。
これまで感じたことのない物足りなさには、気づかないふりをして。