もみあう二人の体重で、長椅子がきしんだ。
仰向けのピ−タ−をまたいでハりーが馬乗りになっている。
ピ−タ−は一つの危惧を抱いて、力の加減に苦心しながらも懸命に抵抗していた。
もし本当に服を脱がされるようなはめになったら、貧弱だった自分の体が
変化していることに気づかれてしまう。
いっそ一息にはねのけてしまおうか、という考えがちらりと頭をよぎる。
だがそれでは本末転倒なのだ。
「ずいぶん暴れるじゃないか。そんなに俺のことが嫌か。」
ハりーはピ−タ−のシャツに手をかけ、力任せに引き裂いた。
「もうよせよハりー!君を失いたくないんだ。
君を苦しめることになるなら、僕は彼のカメラマンをやめるよ。
だから……」
「そんなことは誰も頼んじゃいない!」
平手で打たれたピ−タ−は、青い目を見開いた。
薄笑いを浮かべ、目を血走らせたハりーに普段の端正な青年実業家の面影はない。
乱れた前髪が額にぱらぱらとかかるのをうっとうしそうにかきあげ、
耳を覆いたくなるような言葉をピ−タ−に投げつけた。
「あの蜘蛛とはもうヤッたのか?俺の父を殺した手に抱かれたのか?
せいぜい悲鳴でも上げてヤツを呼べよ。」
「本気で言ってるのか?」
「ああ本気だよ。」
「でも君はつらそうだ。」
明らかにハりーはひるんだ。
その隙を突いてピ−タ−は長椅子から床へ転がり落ち、
素早く立ち上がってハりーに言った。
「……僕に何かしても、彼が来ることはないよ。
だいだい、こんなことをして傷ついてるのは、君のほうなんじゃないのか?」
長椅子に膝立ちのまま、呆然としていたハりーは、
ゆっくりとピ−タ−のほうへ顔を向けた。
彼は泣いていた。
えぐられるようにピ−タ−の胸が痛む。
この研ぎ澄まされた刃のような孤独と絶望を、彼に与えてしまったのは
他ならぬ自分なのだ。
詫びて許しを乞うことは自分の正体を知られることになる。
そのとき、ハりーをどんな衝撃が襲うのか想像もつかない。
「君を、失いたくないんだ。」
「そばにいてほしいんだ、ピ−タ−。」
期せずして二人の声は重なった。
いつか必ず、破綻する日が来るとわかっていても、
ピ−タ−は歩み寄る足を止められなかった。
唇を重ねながら、自分の頬を涙が伝うのを感じていた。