「どこが一番いいんだ。」
顔つきも声音も至極まじめに、張遼は問う。
その手は郭嘉の夜着の合わせ目からもぐりこみ、仰向けになった胸と腹の中間くらいを撫でている。いつもはかさついていると言ってもいいほどに乾いる肌が、張遼の掌の下で徐々に熱を持ち、汗ばんでいた。
夜着の両襟をつかんで押し下げると、骨の形がくっきり浮き上がった鎖骨と肩、胸が現れる。燭台のあかりは照らすよりもむしろ影を作る。骨のくぼみに溜まった闇を吸い取ろうと口をつけると、くすぐったそうに身をよじった。
「郭嘉」
どこが一番いいんだ。わずかに開いた唇から答えはないかのように思えたが。
「……」
口元に耳を寄せると、郭嘉はかすれた声で当ててみろと言ったあと、張遼の首に両腕を巻きつけて耳を噛んだ。
痛みに変わる一歩手前まで歯を立てられ、不意打ちをくらった張遼が反射的に首をすくめると、郭嘉は満足げなため息をついた。
郭嘉とこうして肌を合わせるようになるまで、張遼は自分の体がこれほど多くのことを感じるものだとは知らなかった。
もともと色事に執着するほうではなく、肉体は鍛えるためにあるのだとすら思っていたが、その認識は郭嘉とのたまの逢瀬のたびにひっくり返され続けている。
今も、起き直った郭嘉が張遼にのしかかる姿勢で唇を重ねてくるのを受け止めながら、張遼の下腹部の奥から背筋へぞくぞくと鳥肌の立ちそうな感覚が這いあがる。それが期待なのか、快楽におぼれることへの恐れなのかはわからない。
腰骨の上やへそのまわり、首筋、上腕や腿の内側などを郭嘉が指でたどり、舐め、甘噛みするたびにその部分がじわりと熱くなっていく。
やがて全身に熱が回った張遼が、息とも声ともつかないものをもらすようになるまで追い上げられると、郭嘉は抱き寄せようとした張遼の腕をするるりとよけて足元にうずくまり、上を向いた肉茎の先端を音を立てて吸った。
じゅるっ、というその音自体が脳をかき乱す。
熱い口の中で締め付けられ、くびれた部分を丹念に舐められ、ぬめりと押し当てられた舌が先端を何度も往復する。そのたびに張遼は郭嘉の頭を押さえつけてのど深くまで打ち込みたくなるのを必死でこらえたが、限界が近づくと無意識に郭嘉の名を呼んでいた。
「……っ、郭嘉、郭嘉……っ!」
ぎりぎりの声音に反応して、郭嘉がゆっくり顔を離す。薄い唇から唾液がつぅっと糸を引くのが見えて、張遼の情欲をいっそう煽り立てる。
亜麻の油でほぐしたそこに、張遼はじわじわと自分をうずめていく。うつ伏せの郭嘉は尻だけを高く掲げた姿勢で、寝台に額をこすりつけて喘いだ。
「うぁ……っ!あっ、入っ……」
張遼が気遣いながらも前後に動くたびに、短い声が上がる。それが苦痛によるものだけではないことは、固く張り詰めた郭嘉自身が証明している。力を入れすぎないように掌全体で握ってこすると、すぐにとろとろと体液があふれて指先を濡らした。
「は……あっ、ふぁっ、んあぁ……っ」
鼻にかかった声はまるで泣き声のようにも聞こえる。あふれてくる体液を潤滑剤のようにして先端から根元までをしごきながら、張遼の動きも早くなっていく。やがて郭嘉の下肢がびくびくと震え、汗の浮いた背がしなった。
「あっ、あっ、あっ……!」
達している間中、郭嘉の中はやわらかく張遼を揉み上げている。深く繋がっている部分で感じる熱と粘膜の微細な動きに、張遼も今度こそ限界を迎えた。
固いまま引き抜くと、こすれたせいか郭嘉がまた声を上げてふるえる。
その尻から内腿にかけて、張遼の放った精がとろりとつたい落ちた。
「それで」
突っ伏したまま、組んだ両手の上にあごを乗せ、いかにもだるそうな声音で郭嘉が問うた。
「ん?」
「答えは」
「難しいな。」
きれいに汗をぬぐった郭嘉の背中には、まだ熱が残っている。とがった肩甲骨を指先でなぞるとぴくりと反応した。
「どこに触れても気持ちがよさそうで、判断がつかない。」
ああ、と郭嘉はうなづいたようだった。
「それが正解だろう。どこといって特定できるような行為なら、何の楽しみがある。」
「軍師はこんな話でも理屈をこねるのか。」
半ば呆れ、半ば感心して言うと郭嘉は顔を張遼に向けた。その眉間にシワが寄っている。
「……もう寝る。」
綿入りの夜具を体に巻きつけて壁を向いた背中に、裸のまま寝るなと声をかけても返事はない。すっかり機嫌を損ねてしまったようだった。
厚い夜具ごとその体に腕を回して抱きよせると、静かな呼吸を感じる。張遼はそれだけで安堵する。
悲しいほどに深く。
了