「なんでそう大雑把なんだテメエは!」
朝からサンジは全開で怒っていた。
「今度という今度という今度はほんっっっっとにアッタマきた!」
キッチンに仁王立ちしているコックと、椅子にかけたまま無言でそっぽを向いている剣豪。起き出してきたほかのクルーは、いつもの光景だと思い気にも留めなかったが。
 
「食料もうねェぞ!どーすんだよ!!」
 
 そういえば朝食の支度ができていない。いつもサンジは誰よりも早く起きて朝食を作り、みんながテーブルに着くタイミングにあわせて料理を出す。ところが今朝は、パンの焼ける匂いも卵とバターの香りもなく、皿さえならべられていない。
 
 クルーたちはようやく異常に気づいた。
 
「どうしたのよ?なにがあったの?」
「ナミさーーん!今朝もまたいちだんとお美しい!」
「ありがと。それでどうしたのよ」
あしらうほうもあしらわれるほうも慣れっこなので、特に落ち込んだりはせず、サンジは事情を説明した。
 
 
 
 GM号の冷蔵庫には、太い鎖と鍵がついている。猛獣の檻につけるものよりもさらに厳重なモノなのだが、もちろん冷蔵庫でベンガルタイガーや海王類を飼っているわけではない。外敵(この場合船長のこと)から中身を守るための装備である。
 鍵はサンジとゾロが持っている。コックは当然として、なぜ予備鍵を剣豪が持っているのか・・・本来はナミが持っていた。だが夜の見張り当番になったとき、空腹になったゾロは夜中の2時にサンジをたたき起こした。それが3回繰り返されたとき、面倒くささに根を上げたサンジが、バカ食いしないという条件で、ナミの鍵をゾロに渡したのだった。
 
 ゾロはルフィのように人外の領域までは食べない。そこはサンジも安心していた。だが、剣豪には細かい事を気にしないという長所があり、開けた鍵を閉めるという動作も細かいことに含まれる、とサンジが気づいたときにはもう遅かった。
 
 今朝、いつものように朝食の支度をするためにキッチンに入ってきたサンジは、鍵が床に転がっているのを見て蒼白になった。どきどき波打つ胸をおさえながら冷蔵庫の分厚い扉を開けると、ルフィによってほぼがらんどうになった庫内を、白熱灯が明るく照らしていた。
 
 
「うっかり忘れただけだろうが!」
一応は自責の念のもと、非難を甘んじて受け入れていたゾロだったが、カビ頭と呼ばれるにいたってその忍耐はあっさりと崩壊した。
「うっかり。ほーーーー。気安く言うんじゃねェ!!海の真中で食うもんがなくなるってのが、どういうことかわかってんのかテメエ!!」
サンジがゾロの胸倉をつかんで締め上げ、ゾロがその手首をつかんで立ちあがる。
「「表出ろコラァ!」」
 
 
 甲板で始まった大乱闘よりも、ナミにとってはどこで食料補給をするかが大問題だった。海図を見ても、この付近に島の記載はない。予定していた次の停泊地まではあと4日。水だけで4日間・・・ダイエットだと思えばなんとか・・・。
「あーあ、腹減ったなァ。そういやルフィはどこだ?あいつが元凶だろ?」
テーブルに頬杖をついていたウソップがもっともなことを言った。
  
 5分後、コックの手で特等席から吊るされていた船長を船医が発見した。ロープでぐるぐる巻きにされていたにもかかわらずグースカ眠っていたという。
 
 
「刀抜けよ。オレは本気で怒ってんだぞ」
「テメエ相手にか?見くびられたもんだな、オレも」
肩をすくめてみせるゾロに、カッとなったサンジが鋭い中段蹴りを入れた。ゾロは一歩も引かずに胴をガードする。だがつま先はヒット寸前で跳ね上がり、あごを狙った。
どん!と弾き飛ばされながらも、とっさに両腕を上にあげて防いだらしく、起きあがったゾロは無傷だった。
「フェイクか」
サンジは両手を上着のポケットに突っ込んだまま、一見無造作なスタイルで立っている。しかしそこから生まれる蹴りの破壊力を、今ゾロは身をもって確かめた。
背中がぶち当たった板壁に穴があいている。
「テメエ、普段手加減してやがったな。」
「ったりめェだ。腰にある刀を抜かねェようなアホ相手に本気出すほど落ちぶれちゃいねェんだよ。」
ゾロはいきなり床を蹴ってサンジのほうに走り出した。蹴りはたしかにスゴイが、間合いが取れなければ攻撃のしようがない。一気に懐に入ってしまおうと考えたのは正解だが、サンジはもちろんそれを読んでいる。
 
 シャツの襟をつかもうとした手は空を切り、がら空きになった胸板に、下から槍のような右足が突き刺さった。続いて左足が側頭部に。それはからくもかわされ、コックは床に両手をついた逆立ち状態からぴょんと立ち上がった。
 ゾロは倒れない。
「手応えありだ。あばらが2本は折れたぜ。」
「オレのあばらはそんなにヤワじゃねェ」
「そうかよ」
 
言い終わらないうちに、ごつい拳で殴り倒されてサンジは空を見上げていた。口の中に鉄の味が広がる。倒れていたのは一瞬で、素早く起きあがり、攻撃に転じようとする。広々とした甲板が目に入る。
 ゾロがいない。
振り向くよりも一瞬早く延髄に水平手刀が入り、サンジは前のめりに倒れた。
 
 
 
 
 左頬が鈍く痛む。熱くもある。
「顔・・・オレの顔・・・」
無意識にそう口に出し、自分の声ではっきり目が覚めて半身を起こした。首の後ろもやけに痛い。
「格納庫じゃねェか。なにやってんだ?オレは」
「お前の負けだ」
「うわっっ」
自分一人かと思っていたら、脇にはゾロがいた。壁に背をあずけて床に腰を下ろしている。
「テメエ、さっきはよくもオレの美貌を・・・」
口をきくと頬が痛む。歯が折れなかったのは奇跡だ。
「刀抜いてりゃ今頃その首はねェよ。」
「・・・」
事実だった。もしゾロが敵なら、自分は死んでいた。首筋に冷たいモノが走った気がして、サンジは言葉を飲んだ。
 
「どんな経験してきたかは知らねェけどな。ムキになんな、ガキ。」
「うるせェッ!お前にガキ扱いされるいわれは・・・」
ゾロが右手でサンジの口をふさいだ。大きな掌は顔のほぼ下半分をすっぽり覆う。
「テメエが感情的になってんのみると、興奮すんだよ。」
バカにされたと思ったのか、サンジの目に怒りの色が浮かぶ。きらきらした抜き身の刀のようなその眼は、ゾロの身体に戦いの熱を呼び覚ます。
  
 仲間のあばらをへし折るほどのバカだとは思わなかった。
 
 
 しかも、4度も自分を抱いた男を。
 
 
 
口を覆ったゾロの手が離れ、サンジはぷはっと息をついた。
「・・・おまえは戦闘オタクだ。しかも変態だ。つきあってらんねェ。」
立ち上がって部屋を出ようとしたところを、後ろに引き倒された。
「いっってーーーッ!」
後頭部を床でしたたかに打って仰向けにたおれると、腿の上にゾロがまたがった。身長は変わらないが、筋肉の差で体重はおそらく10kgは違うはずだ。身をよじってもビクともしない。
「つきあえ」
「沸いてんじゃねェのか?!降りろ!つーかどけ!クソ重い!」
今度こそゾロは、サンジの蹴り封じに成功した。振り回す手を押さえつけてネクタイで括るのは簡単だった。
「なに考えてんだよ!昼前だし、あいつらだって・・・」
「ああ、外にいるだろうな。」
「わかってんなら止めやがれ!」
 
 
「ムリだ。」
ゾロのズボンの前が強張っている。腿に触れている部分から、布地を通してその熱が伝わってきそうだった。シャツのボタンが無骨な指ではずされ、胸も腹も露わになっていく。
「よせ、マジでやめろ、おい!触ンな!・・・やめろっての・・・!」
スッと乳首をかすめて通り過ぎた指先が、今度は少し強く擦る。柔らかい乳首がコリコリと固くたちあがる頃には、サンジの身体はかすかに熱を帯びはじめていた。

 意外なほど近くで人の声がした。
部屋の外を、おそらくウソップとナミが話しながら歩いていく。
緊張でサンジが硬直しているあいだに、 ズボンのベルトが抜かれた。
 
 
 心の中では100デシベルくらいの音量でやめろーーー!と叫んでいるが、ナミに気付かれてこんな現場を見られるわけにはいかない。
ゾロはさっさとズボンと下着をサンジの脚から抜き取ってしまった。
「夜まで待てねェのかよ!」
「待てねェ。だいたい半勃ちのくせになに言ってやがる」
「・・・ッ!」
ピン、と指先で性器をはじかれて、鋭い痛みに腰が跳ねる。
「お前、あんまり日焼けしねェな」
「あ?・・・さ、触ンなよっ、いいから夜まで待・・・っ」
ゾロはサンジの耳が弱いのを知っていて、必ずそこを責める。唇や歯で愛撫し、サンジの意識がそこに集中すると、へそや脇腹にいきなりうつる。気まぐれなリズムはパターンがつかみにくく、不意をつかれて声が出る。
 手首を拘束していたネクタイはいつのまにかほどけたが、サンジはもう抵抗できなかった。

「・・・あっ、あ、つぅッ・・・」
敏感になりすぎた性器に痛いほどの刺激がある。きつめに握られてごしごしとこすりたてられ、先走りがあふれた。ペニスが自分の体液にまみれて、ゾロの手が上下するたびに粘着質な音を立てている。
「もっと足開けよ」
「偉そうな・・・ヤツだな・・・っ」
指が内側に潜り込んできた。いつまでも異物感に慣れないアナルが収縮して指を締めつけ、ゾロはちぎられそうだと言いながらより深く入れようとする。
「そ、そこやめろ!やばいから!うぁ・・・あ、あんっ」
「そんなに気持ちイイもんなのか?」
うるせェ!テメエのケツにも刀突っ込んでやるからな!覚悟しとけ!
と言ったつもりだったが、実際は声になっていなかった。内外から刺激されて射精感は高まる一方だが、ゾロの手が根本をぎっちりつかんでいるために放出できず、だんだん苦しくなってくる。
「やっ、あ、あ、ゾロっ」
サンジの要求をわかっていながら、ゾロは手を緩めない。イキそうなサンジの顔はいつ見てもいやらしいと思う。もう完全に硬くなっている自分のペニスを濡れた唇に突っ込んで、喉まで犯してみたいが、このコックは本気で噛みちぎりかねないのでなかなか実行に移せない。
「テメエに入れてェよ・・・」
アナルから指を引き抜くと、サンジはビクビクと痙攣した。ゾロに抑えられていなければ、たぶん射精できるほどの快感だったのだろう。コイツがイクのが見たい、という気持ちともっと焦らしてやれ、という意地の悪い思いが交錯し、結局ゾロは後者に従った。
 声を殺すため、サンジは自分のシャツを噛む。指が身体から抜かれ、そのままゾロが入ってくるのかと思ったら、足をつかまれてうつぶせにされてしまった。前の方をゾロに握られているぶん腰が浮く。ほぼ四つん這いの姿勢になり、後ろにいるゾロにはすべてをさらけ出す格好になる。ゾロの視線を感じて膝がガクガクした。
 入り口に硬いモノが押し当てられ、ゆっくりとそれが入ってきた。ぬるっとしているのは、おそらく自分の先走りを潤滑剤代わりにされているからだと気づき、恥ずかしさで顔が熱くなる。
一番きつくて痛い部分を通過し、てっきり奥まで突かれると思っていると、ゾロはそのまま動かなくなった。
「・・・やっぱアバラ痛ェ。」
「ああ?!」
自分で動いてみろと言われて、サンジは断固拒否した。
「男にケツが振れるか、阿呆っ」
「じゃあこのまんまだな」
背中の傷跡をなぞられてゾクッとした。ペニスを締めつけていた手が離れ、かわりにゆるい愛撫がはじまる。
意地でも動かねェ、と決めはしたが、ただサオを撫でられるだけでは絶頂まで辿りつけない。
「う・・・っ」
ぴくん、とサンジの足が震えた。半端な位置でとめられると、かなりつらい。
「抜けよ・・・」
圧迫感をこらえながら言うと、ゾロは少しだけ腰を前に進めた。
「んあぅっ」
挿入された先端がかすかに前立腺にふれる。一瞬だけ、ものすごい快感が下肢を通り過ぎる。もう一度味わいたい。苦しい。出したい。感じたい。楽になりたい。出したい。もう一度、こすってほしい。どっと押し寄せる感情依以前の混沌に、
「あ・・・あっ・・・」
サンジの唇から、こらえきれないうめきが漏れた。
 
 
 眼下の白い背中がひきつれたように動くのを、ゾロはじっと見つめていた。淡いピンク色の痕が背骨に沿ってスッと残っており、背中の筋肉と同時にそれも動く。ほんのわずかに盛り上がったその傷痕は、まるで揺らいでいるようにも見える。
 自分の胸に残るぎざぎざの縫い跡と比べれば、それは傷痕と呼ぶのもためらうほど美しい桜色の蛇。

「くぅ・・・」
ガクンとサンジの肘が崩れ、うつぶせになって尻だけを高く掲げた卑猥な姿勢になった。やがて粘膜がゾロをゆっくりと覆ってゆく。半分以上露出していたペニスが白い身体に飲み込まれていく。
 窓から入ってくる明るい日差しが、まだ真昼であることを教えている。
耳を澄ませば仲間たちのはしゃぎ声も聞こえるかもしれない。

この部屋の中だけが湿っぽくて淫靡な真夜中だった。

 根元まで体内におさめて、桜色の蛇はゆらゆらと満足げに動き始めた。
 
 
 
 END


戻る