夜になると春の気配は吹き飛んだ。暖房設備などない船内のこと、寒さ対策は重ね着と早寝あるのみ。
「明日いっぱいは冬ね、きっと。今夜の見張り誰だっけ?」
ココアをすすりながらナミが言った。昼の薄着の上にキルティングのガウンを羽織っている。サンジはウールのシャツを袖まくりして、食器棚の整理をしていた。
「マリモです、ナミさん。」
「じゃあ凍死の心配はないか。吹雪に寒中水泳するようなヤツだもんね。」
「そりゃあもう……え?そんなに寒く?」
皿を磨いていた手が止まる。
「ううん、たぶん5度くらい。でも戸外で居眠りしてたら永眠しちゃうわよ。」
笑えない冗談を残してナミが去ったあと、サンジは磨き終わった皿を丁寧に棚にかたづけて、夜食と燗酒の準備を始めた。



 彼が片手で器用にはしごをつかんで上がっていくと、頭から毛布をかぶったゾロがいた。
「オラ暖まれ。」
厚い布でくるまれた酒器を、ゾロは無言で受け取った。
鍛えた体でもさすがに冷えていたらしく、小さめの銅のカップに注いだ酒を勢いよくあおる。
「熱ィ……生き返る。」
ボソッとつぶやくと、今度はゆっくりとすすっている。毛布にくるまれた膝元に焼き鳥の皿を置き、サンジはタバコに火をつけた。寒気に身がすくむ。
「冬眠中のクマみてェなカッコだな。」
「……誕生日」
「ん?」
「言ってねェんだろ、他のやつらに。」
返事の代わりに煙を吐いた。
「明日言えよ。過ぎちまってからじゃあ、ルフィが怒るだろうがな。」
「おまえが決めんな!……言われなくったってなァ、言うつもりだよ。」
「おお。存分に祝ってもらえ。」
「うるせェよボケナス剣士!蹴り落とすぞ!」
悪態とうらはらに、どうしても笑顔になってしまう。チョッパーみたいだとゾロに言われ、やっと口元が引き締まったとたんにくしゃみが出た。


「寒いんだったら入りゃいいだろ。」
有無を言わさず強い腕が毛布の中にサンジを巻き込む。後ろから抱え込まれ、暖かさに思わず目を閉じた。
「そういやお前、誕生日いつなんだよ。」
「忘れた。」
「ふうん。マリモだなァ。うわ!」
右耳にがっぷり食いついたマリモは、多少暴れたくらいでは離れない。
「おいっ、見張りしろっての!また空からガレオン船なんか落ちてきたら……んがっ」
無理やり口の中に進入してきたゾロの指が、サンジの舌をなぞり、はさみ、好き勝手に蹂躙しはじめた。
「ふぅっ……んっ」
毛布の下ではどんどんシャツのボタンが外されていく。丹念に耳をなぶっていた舌がやっと離れた。濡れた耳が空気に晒されてひやりとする、その感覚に次の刺激を予想して、勝手にサンジの身体が反応する。
「冷えてンな。」
「ん……っ!」
脇腹から胸骨まで撫で上げた手が乳首をとらえ、だがすぐに鎖骨まであがっていく。いつのまにかサンジは口中深く差し込まれたゾロの指を懸命に舐めていた。爪の先から根元まで舌を絡め、まるで違うモノにそうするときのように。

 ゾロの左手が、ゆっくりと肌の上をすべっていく。少しがさついた感触が好きだと思うようになったのはいつからだろう。強引過ぎるほど強引なこの男が、サンジに触れるときはなんと力を加減していることに気づいたときだったか。そんなことを考えている間に、もうかたくなっているモノを下着の上から擦られて、反射的にくわえている指に歯を立ててしまった。
ギリッと噛むと触れて欲しい場所から手が遠ざかる。緩めればまたそこへの刺激が始まる。
「うぁ……あ、ふっ、っ……!あっ、んあっ」
手の熱が濡れた布地を通して伝わる。ももの外側に当たっているゾロ自身も固く、熱くなっているのがわかる。
「寒いか。」
つっと指が抜かれた。自由になった口腔に冷たい空気が流れ込む。今の問いかけの意味をつかむ余裕もなかったが、考える前に上体を持ち上げられ、穿いていた物を脱がされた。
 ごわごわちくちく。毛布の肌触りがゾロに似ていて、くるまれるのが心地よかった。やっと直に握られたサンジのペニスは、ゾロの手のなかで体液にまみれている。
「……っは、あ……」
猛るゾロに指を這わせ、しごいてみた。すっかりできあがっているソレはサンジと同じように先端を濡らし、受け入れられるのを待っている。
「突っ込みてェ。今すぐ。」
サンジの首筋に顔をうめたゾロが、苦しげに言った。



体重をかけた手すりがぎしぎしと鳴る。
最初は後ろから抱えられたまま挿入されたが、ゾロが抜き差しするにつれサンジは前のめりになっていき、結局は膝立ちで手すりにすがりつくような体勢になった。
「んっ、ん、ああっ、あ……」
ここで声を出したらダメだと必死で押し殺す。そんなサンジの努力を無にする勢いで、体内のゾロは容赦なく責めたててくる。
「……クソ剣士……っ」
快感を生み出すポイントを把握されているのが悔しいが、つままれている乳首も握られているペニスも、確実にサンジを絶頂に追い上げていく。ゾロの息も荒い。
「あー……っ」
ごりごりとこすられた内側からの刺激にもう耐え切れなかった。
「んん……ッ」
固く目を閉じて迸る熱に身震いする。くずれそうになる身体をゾロが両腕で支え、腰を強く打ちつけてきた。
「……ッ!」


「ゾロ。」

「……ああ?」

「てめェがなんかの間違いで世界最強になっても、いつか次のヤツに負けるよなァ。」

冷えた酒を吹き出しかけ、ゾロは口元をぬぐった。

「ぶった斬られるかもしれねェけどよ、もし生きておれのとこまで来られたら……」

「なんだよ。」

ごつ、と額がぶつかった。

「うまい飯食わせてやる。」



む、と剣士の眉間に縦ジワが寄る。サンジの顔は満足げにほころんだ。
そのために生きていってもいい。そうだ、そうしよう。
この場のノリで彼はそう決めた。


「あ、でもオマエ、一人じゃ遠くまで行けねェよな。どうすっかな。おれの店の近くで決闘しろよ。バラティエのヒレ貸してやってもいいし。」
「まず服着ろ。もう一回犯すぞテメェ。」

「これ吸ってからな。」

ふっと煙を吐く。素肌に触れる毛布がゾロのようで名残惜しいのだと、悟られてはいけない。




END

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