「力抜けよ。」
狭い部分を押し広げて、ゾロが入ってくる。
「う……っ」
上体をおこしていられず、縛られた手を支点にほとんど吊り下がるような恰好になっているため、身体が揺れるたびに配水管がいやな音を立ててきしむ。
「……っあっ、ふ、っ」
ゾロの手が前に回り、サンジをしごきだした。たらたらとこぼれ続ける先走りのせいで、激しくこすられても摩擦の痛みはない。
「ああ、あうっ、うん、ん……っ」
動かされているのか、自分が動いているのかわからなくなるくらい快感を煽られ、サンジは二度目の限界を迎えていた。


 眼下の背中に汗でシャツが張り付いている。一筋の切開跡があるサンジの背中。ゾロは左手でシャツをめくりあげた。右手は休まずサンジ自身を愛撫しながら、その傷跡に口をつけ、舌でたどる。少し高めの声をあげてサンジが身をよじった。
その声が、ゾロを追い上げる。なにも考えずひたすら腰を打ちつけたくなる欲望を抑えて、サンジが一番反応する箇所をえぐるように突いた。

「も、もう、あっ……ああ、あ……っ」

すでにぬるぬるになっていた手が、精液にまみれていく。サンジが身震いし、粘膜が一際強くゾロを締めつける。
「ウ……ッ」
痛みをこらえつつ抜くと、それが刺激になってゾロの中からこみ上げてきたものが一気に解放された。ドクドクと吐き出されたそれは、サンジの腿を伝い落ちていく。
「……さっさとほどけよ。」
「あ。」
すっかり忘れていた。ゾロはサンジを配水管につないでいる自分のバンダナに手を伸ばした。




 やっと自由になった手首をさすり、あとが残っていないことをしつこく確認し、サンジはおもむろに言った。
「それ脱げ、マリモ。」
「あ?」
「てめェの着てるもんだよ。身体拭くんだよ文句あンのかコラァ!」
無言で渡されたゾロの黒いランニングシャツを、ぐしゃぐしゃ丸めているサンジに背を向け、身支度をしたゾロは地面に座りこんだ。
 やがて紫煙がただよってきた。振り返って見上げると、サンジは木箱の上にふんぞりかえってタバコを吸っている。目があうと、にらまれた。
「次はねェぞ、エロマリモ。」
「ああ?」
「あ行で返事すんのはやめろ。つうかテメェはさっきから“あ”しか言ってねェ。」
ふーーーっと煙を吹きかけられたゾロは、何しやがる、と立ち上がった。

「てめェこそ人をなんだと思ってやがるんだ。性欲処理係か?」
この場で、いやお前のほうが1回多く出してるし、と言うべきでないことはゾロにもわかる。だがサンジが怒っていることを認識すればするほど、ゾロは腹が立ってきた。

「そうじゃねェだろ?!本気で言ってんのかテメェ!」


 つい大声になるのをとめられないまま、シャツの胸倉をつかみ、強引に引き寄せて唇を吸った。

言葉で場を収拾するのはなによりも苦手だ。
刀で斬り伏せられないものは自分の気持ちさえもてあます。

 そもそも、それを言葉にできないのがゾロだった。

最初、ゾロの肩やわき腹を叩いて抗議していたサンジの拳は次第に開かれ、白い指が日焼けした首筋に触れた。呼吸もままならないほど深く唇を重ねながら、剣士を抱え込むようにサンジは腕を回した。



 この修行バカに自分がなにを求めたのか、もちろんわかっている。欲望や怒りや苛立ちをむき出しで投げつけて、受け入れられて互いに当然だと思っている。言葉だけではとうてい通じないものがある。それでも、

 それでも、言葉で伝えてほしいこともある。





「ねえ」



突然間近で人の声がした。反射的に刀の柄に手をかけながら振り返ると、ゾロを見上げていたのは、薄汚れた少女だった。
「オマエ、さっきの……ついてきてたのか?!」
それにしては気配を感じなかった。
「ううん、今来たの。ねえ、おじさんはその人の恋人?」

木箱から降りようとしていたサンジが、バランスを崩して大きな音を立てた。
「お……おじさん……って」
うつむけた肩がヒクヒクと小刻みに震えている。
それを見て、やっぱりこいつとは一度決着をつけようと思いつつ、ゾロは刀から手を離した。
「妙なこと口走るんじゃねェよ。なんなんだオマエは。なんでそんなにオレたちが気になる?普通海賊って言われたら逃げるだろうが。」

 ゾロから3メートルくらいの位置にいた少女は、一歩後に下がりはしたものの視線はゾロの目から外さずに答えた。

「髪の毛……」

「?」

「きらきらしてて、きれいだから……」

あっけにとられ、すぐにサンジのことだと気づいた。
「そんな理由で、オレたちを探してたのか?ガキはわかんねェな……」
腕組みして首をひねる横を、サンジが通った。

「なに言ってんだ、クソ剣士。ガキかどうかなんざ関係ねェよ。」
サンジはじっと自分を見つめる少女の前にかがみこみ、くしゃくしゃの茶色の髪にぽんと手をおいた。


「手に入るかどうかわかんなくても、追っかけちまってここにいるんだろうが。オレたちは。」


そういうとらえかたもあるか、とゾロは素直に感心した。なんにせよ、口の立つ男だ。

「か、髪、さわってみてもいい……?」

おずおずと少女は言い、サンジが笑ってうなづくと、そっと小さな手を伸ばした。






 寄り道というには時間も体力も食いすぎだったが、サンジはやっと本来の目的を果たしに市場へ戻ってきた。
新鮮な魚、野菜、チーズに肉。予算の許す限り買い込むと、どんどん後ろの荷物持ちに渡していく。
「まだ買うのかオイ!前見えねェぞ!」
「もう終わりだ。落とさねェようについてこいよ。」
「だから前が見えねェって!」
両腕に食材の入った袋をいくつもぶら下げ、さらにまとめ買いした根菜の箱をかかえている裸の上半身に腹巻を着けたゾロ。並んで歩きたくねェなあ、だの、海賊ってよりは人足だな、だのとサンジに好き勝手言われている。
「船戻ったら覚えてろよ、ヒヨコ頭。」

 市場を抜け、人ごみが途絶えた。港はもうすぐそこだった。サンジは立ち止まってタバコに火をつけた。
「さっきの子は、ありゃ美人になるぞ。オレの目に狂いはねェ。」
その間に少し遅れたゾロが追いつく。

「ボソボソ内緒話なんかしやがって。」

「オマエってほんと独占欲強くて嫉妬深ェのな。」

「ああ?!何言っ……おわッ」

動揺した隙に荷が崩れ、一番上のジャガイモの箱が滑り落ちた。止めるに止められず、一瞬のうちに地面にぶちまけれられたジャガイモの幻まで見たが、サンジが膝から下であっさり受けとめていた。
 絶妙なバランスで脚の上に載せた木箱を手で抱えなおし、肩に担ぎ上げると、サンジは船へと歩き出した。

「でもよ、ジェラシーなときのオマエってアホ面で情けなくて本性全開ってカンじで」

ゾロの顔が凶悪になる。

「オレはわりと気に入ってる。」


南からの潮風が先を歩くサンジの髪をかき乱す。

きらきらしていてきれいだと、そう口に出すべきかどうかゾロは迷っている。


船まであと数メートル。





END



戻る