摩天楼が見渡せる大きな窓から、心地よい風が吹き込んでくる。
だがハりーはなぜかそれを閉めてしまった。
話がしたいという電話をもらって彼の家まで来たものの、
ピ−タ−は居心地の悪さを感じずにはいられない。
「窓もドアも閉めた。これでもう俺たちの話は誰にも聞こえない。」
窓辺の長椅子にかけたピ−タ−の肩に、背後からハりーの手が置かれた。
「教えろ、ピ−タ−。ヤツはどこにいる?」
「やっぱりその話か。」
ピ−タ−は重いため息をもらした。
「君はお父さんの会社を引き継いで、しっかり経営している。
それで充分じゃないのか?
お父さんだってきっと喜んで……」
「ふざけるな!!」
ハりーは拳で窓を叩いた。分厚いガラスにはヒビもはいらないが、
震えた窓枠が耳ざわりな音をたてた。
「父のことをお前に言われたくない!どんなことでもだ!
仇の肩を持つ野郎なんかには……!」
激昂して室内を歩き回るハりーを、ピ−タ−はただ目で追っていた。
「しっかり経営?ハッ、あんな実験に金を出してたことで、
会社の評判は地に落ちたさ。俺には何もない。
父も、mjも、金も失った!」
テーブルにあったグラスを掴み、ハりーはピ−タ−に投げつけた。
当てる気はなかったのか外れたのか、バカラのタンブラーは床で砕けた。
「僕がいるよ、ハりー。なにがあっても、僕は君の友人だ。」
胸の奥の複雑な感情を押し殺し、ピ−タ−はそう告げた。
大またに歩み寄ってきたハりーは、ピ−タ−のあごに手をかけて
仰向かせ、その顔を見下ろした。
「そう言いながらお前は、あのクモ野郎をかばい続けるんだろう?
どうしてだ?!俺よりヤツを選ぶってのか?!」
ハりーの手は、痛いくらいの力であごをつかんでいる。
その必死な目の色に、ピ−タ−は自分がクモなのだと叫んでしまいたい
衝動に駆られた。だが、必死の思いでかみ殺す。
これ以上ハりーを傷つけたくはなかった。
「どうして黙ってるんだ?まさかお前ら、デキてるのか。」
「……酔ってるのか。僕はもう帰らせてもらう。」
立ち上がろうとするピ−タ−を、ハりーは思いっきり突き倒した。
長椅子に倒れこんだ体にのしかかり、首に手をかける。
「もしそうなら、俺は父だけじゃなく、お前も奪われたことになる。」
そんなことが許せるか、とハりーはつぶやいた。
「落ち着けよ……そんなわけないだろ……」
ピ−タ−は絞めつけてくるハりーの手をなんとかひきはがそうとする。
本気でそうしようと思えば、普通の人間の力など何ほどのこともない。
だが彼をここまで追い詰めたのがほかならぬ自分であるという事実が、
振りほどく力を弱らせる。
「ははっ、いいことを思いついたぞピ−タ−!
ここで俺がお前をレイプしたらどうなると思う?
あいつが助けに来るんじゃないのか?
無理に聞き出さなくても、自分から現れるんじゃないのか?!」
「あんまりバカなこと言うのは……よせ……っ!」
急に首から手が離れ、ピ−タ−は咳き込んだ。
「君は……ゲホッ、一番大事な友人だ。本当だよ、ハりー。」
「俺は友人で、アイツはそれ以上ってわけだ。」
「おかしいぞ、さっきから何を言ってる?君の妄想だ。」
ピ−タ−の中に暗雲が広がりつつあった。
2年前に倒した彼の父親のように、今のハりーは自分の妄想の虜になっている。
甲高い声でハりーが笑った。
「どうしてあの部屋から出て行ったんだ、ピ−タ−。
お前さえいてくれれば、それでよかったのに!
俺はもうお前を愛してるのか、憎んでるのか、わからない。」
歪んだ笑いを浮かべたまま、ハりーはネクタイを緩めた。
「ヒーローが来てくれることを祈れよ。」
to be continued