『お料理コンクール!
自慢の腕を披露してください。
優勝者には賞品としてログポースと
100万ベリーを差し上げます!』



港の入り口に立てられた看板に、最初に目を留めたのはナミだった。
「100万ベリー?!」
でかでかと書かれた字の下には、少し小さい字で日時と会場が記されていた。
この島には着いたばかりなので、果たして何日あるいは何時間でログが溜まるのかはわからないが、賞品としてあげられている以上、かなりの時間がかかりそうではある。
「おいしい話じゃなーい!100万ベリーとログポース、いただいちゃいましょ」
はしゃぐナミに、買い出しのために船を下りてきたウソップが言った。
「ログポースはおまけなんだな・・・?」
「なに言ってんのよ!100万ベリーよ?ログは待ってりゃ溜まるけどお金はそうはいかないんだからね!」
「わかったわかったよ!で?オマエが料理してるとこ見たことないぞ。」
「ウチには海の一流コックがいるじゃない。」
「やっぱりな。」 もちろんサンジが承知しないわけはなかった。船に戻ったナミに話を聞き、自分で看板を読むと、場所の下見とマーケットの品揃えの確認を兼ねてさっそく街へ向かった。
天気は良く、上機嫌で口笛を吹きながら歩いているサンジには、早春の少し冷たい風もかえって心地よい。だが町の中心部に近づくにつれ、その口笛はとぎれがちになっていった。
(スラム・・・?いやそれならもっと街の外れにありそうなモンだが・・・)
崩れかけた石造りの家が舗装もされていない道の両脇に並び、店舗は地面に立てた細い棒にボロ布をわたしただけの、強風が吹けば吹っ飛びそうな粗末な造り。しかも店先にほとんど商品はなかった。
痩せこけた子どもたちがそんな建物の陰に立ってサンジを見つめている。ためしに笑って手を振ってみると、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
(こんな街でお料理コンクール?変だろそりゃ) 看板に書いてあった場所はすぐにわかった。まともな建物がそれしかないからだ。
『エント領事館』
大理石に華麗な装飾文字でそう彫られた表札が、ふた抱えはありそうな門柱に埋め込まれており、高い塀がえんえんと続く。中には花が咲き乱れ、石ころ一つなく掃き清められた館への道が延びているのが見えた。
「まァ行ってみるか。」
サンジはツルバラを象った門に手をかけた。  一方、他のクルーたちは食事のために上陸し、町の様子に呆気にとられていた。
「飯屋って雰囲気じゃねェな。」
ちょうど昼寝から覚めて珍しく一緒についてきたゾロが言う。
彼らが見た光景は、サンジが見たものと変わらなかった。貧しい身なりの住人たちがわずかに行き交い、わずかばかりの小魚や薄く焼いたパンのようなものをやりとりしている。
「と、とりあえず聞いてみましょうよ。港にも船は何隻かあったみたいだし。その人たちが食事する場所がきっとあるわよ。」
ナミの言葉に気を取り直したのか、ルフィがやっといつもの調子で通行人に声をかけた。
「おっちゃん!飯屋どこだ?」
「飯屋?腹が減ってるのか?」
「すげえ減ってる。」
男は顎に手をあてた。痩せて日焼けした顔は年老いて見えるが、実はまだ40代なのかもしれない。身につけた服はつぎがあたっているが、きちんと洗われ清潔そうだった。茶色の目でナミやウソップたちを順に見ていくと、また視線をルフィに戻して言った。
「この町には、そういう場所はないんだ。客に金を取って食べさせるようなモノは作れないからな。」
「えーーーー?!」
ルフィが絶望感に満ちた声をあげた。
「そんなに腹が減っているのか・・・粗末なものでよければ、私の家でなにか出そう。」
「ほんとか?!悪いなーおっちゃん。肉あるか?」
船員たちの一瞬のためらいをよそに、船長はもう男の後について歩き出していた。


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