麦藁一味は食料庫に押し入った後、館内部の賛同者たちの助けを得て食べ物を広場に運び出した。
兵士や執事は隣国の人間だが、庭師や倉庫番、厨房の下働きなどを勤めていたのはこの国の者たちだった。抑圧されてきた彼らが、自分たちのために立ち上がったということだろう。
もうじき陽が沈む。二人は館の中庭を抜けようとしていた。夜になってしまっては、地理を知らないこちらが不利だ。とにかく塀にたどりつきさえすれば、ぶっ壊して逃げられる。そして塀はもう目前だった。
「よーし、ここ出て早いとこ・・・!!」
息をのみ、サンジが足を止めた。前方に立つ人影は、この場には不似合いなドレスを身にまとい、武器も持たずに立っている。
「早いとこ・・・なんだ?」
紅を引いた唇が、ゆっくりと尋ねる。
「どけ」
動かないサンジの肩に手をかけて一歩前に出ると、ゾロは刀の鯉口を切った。特に殺意は感じない。だが目の前にいるというのに気配もない。いざとなれば斬るつもりで、ゾロは間合いをはかった。
モンタナは無表情のまま、冷たい声で言った。
「そこのコック、これが最後だ。作り直せ。」
「お断りだ。」
サンジの即答。その直後、前へさしのべたモンタナの手から何かが放たれ、反射的に体を反らしたゾロの肩をかすめた。
バッと鮮血が飛び散る。
「な、なんだァ今の?!」
とっさに飛び退いたサンジが身構えつつゾロを見ると、左肩から血が垂れてはいるが傷は浅いようだった。
「・・・悪魔の実の能力者か、てめェは。」
声も落ち着いている。たいしたダメージではないことを示すかのように、彼は刀を抜いて三刀流の型になった。
「何という実かは知らぬ。あれを口にしてから、どれほど食べても満足感を得られぬかわりに、この力を手に入れた。・・・望んだわけではないけれど。」
モンタナがそう言い終わらぬうちに、剣士は踏み込んだ。
「鬼斬りッ!」
容赦なく繰り出された大技に対し、モンタナの体はあまりに華奢で無防備に見える。しかし、刀がその白い肌に触れることはなく、弾き飛ばされたのはゾロのほうだった。背中から灌木の茂みに突っ込んだが、すぐに起きあがって構え直す。
「私に物理攻撃は無意味だ。」
笑うでも怒るでもなく、冷たい美貌はただ事実のみを告げた。