攻撃と防御の能力が一体化している能力者は珍しくはない。彼らの船長もその一人だ。だが、ゴムでも斬られれば傷を負うように、モンタナにも何らかの弱点はあるはずだ。
「どういう能力なんだよ、一体・・・」
サンジは思わずつぶやいていた。今までの敵は聞きもしないうちから自分が食べた実の能力を自慢していたが、何の実か知らない、と言われたのは初めてだった。
「待てよ・・・満足感がない?あれだけ食ってもか?」
何かが引っかかった。だが考えをまとめる暇もなく、モンタナの斬撃が襲ってくる。見えない刃がネクタイの端を斬り飛ばした。
「おいクソ剣士!3分持ちこたえろ!」
「俺を足止めに使おうってのかよ。いい度胸だぜ。その間にせいぜい考えろ!」
ニヤリと笑うと、ゾロは一刀になってモンタナに斬りかかった。力をセーブして、はじき返された反動を次の攻撃に使うことで絶え間なく斬撃を浴びせることができる。
しかもゾロが正面に立ちはだかって視界を遮っているため、モンタナはサンジへの攻撃ができないようだった。
「なんで俺が考えてるってわかるんだ?腹巻きのくせに・・・」
実際彼は考えていた。切羽詰まって考えていた。きっと簡単なことなのに、材料が何か足りなくて味がぼやけたスープのような、ぼんやりしたものしか浮かんでこない。
どんな能力かわかったところで確証はないし、弱点看破につながるとも限らない。いっそ自分も一緒に攻撃した方が・・・と迷ってゾロを見ると、もう戦いに没頭している背中がそこにあった。斬りあげ、斬り下げ、突き、刀が生あるもののようにしなやかに動いている。
きっと3分という言葉はすでに彼の脳裏にはなく、目の前の壁をどう越えようかと思っているに違いなかった。
日が完全に落ちた。
あっというまにゾロとモンタナの姿は闇に飲まれ、息づかいやかすかな金属音が聞こえるだけだ。考えはまとまらず、サンジは襟元に指を突っ込んで乱暴にネクタイを緩めた。ふと斬り飛ばされた端に触れ、繊維がほつれているのに気づく。
「あ。」
これはおそらく、焦げている感触。空腹感。体から放射されるモノ。
「カロリーだ。」
自分の体内のエネルギーを、熱波に変えて自在に操る女。
「そりゃ腹減るよなァ・・・」
同時に、サンジは気づいていた。やはり弱点は見当たらないのだ。
能力者である限り、海の呪縛からは逃れようもないが、アーロンパークのように敷地内に海水を引き込んであるわけではない。
「待てよ、真っ暗になったってことは、逃げられるんじゃねェのか。」
もう負けねェ、と誓った剣士が同意すればの話だが。
だが海水は、彼の知らないところでこの庭の中に運ばれてきていた。
偶然同じ日に財宝目当てでこの場所を襲ってしまった海賊団は、モンタナが能力者であることを伝令役を使っていちはやく港で待つ仲間に伝え、樽に海水を詰めて転がしてこさせたのだ。
ルフィたちが領事館から港に引き上げる間の近衛兵を倒していったため、なんの妨害もなく海賊たちは大通りを進んできた。あとは門の中にいる仲間と合流してモンタナを探し出すだけだった。
闇の中に激しい火花が散っている。ゾロの剣と、モンタナの防御壁がぶつかりあって摩擦が起き、一瞬紅い光になる。
おそらく効果はないが、自分も攻撃しようとサンジが身構えたとき、いくつもの松明の灯りが現れた。庭や館の中を移動しながら互いに合図を送るような動きを見せている。たいしたことのない灯りでも闇に慣れた目には刺激が強く、ほんのわずかにゾロに隙ができた。それをモンタナは見逃さなかった。
「私のために作れぬなら、もう誰にも作るな!」
放たれた熱波は、反射的に伸ばしたゾロの指先をかすめ、正確にサンジの首筋を狙っていた。
「サンジ!!」