計3個持ち込まれた海水樽のうち、1個は館正面に、1個は裏庭に、最後の1個は中庭に置かれていた。
樽を抱えて館内を捜索するわけにはいかないので、海賊たちは革袋や飲料水用の小さな樽にうつして持ち歩き、モンタナを見つけ次第松明で合図を送ることにしたのだった。発見、の合図までそう長くはかからなかった。

 バシャッと水音がし、潮の匂いがたちこめた。

熱波は、サンジの首筋に細い赤い線を残して消えた。
続々と集まってくる松明に照らし出される、ずぶ濡れのモンタナ。もう彼女を守る防護壁はなく、近衛兵もなく、そこにいるのはただの女でしかなかった。
「な・・・なにしやがるてめェら!!」
海賊たちに向かって叫ぶサンジの肩を、ゾロがつかんだ。
「今は助けられただろ。」
「てめェはいいのか!勝負の最中に邪魔されて・・・」
「時間稼ぎに、勝負も何もあるか、バカ。」
「・・・ッ!」

 直情径行タイプにみえるこの剣士は、ほとんどの場合サンジよりも冷静に動いている。それを認めることはなにより悔しいが、サンジは肩から力を抜いた。

 モンタナは力が入らないのか、うつむいて地面に腰を落としている。豪奢なドレスも濡れて体にまつわりつき、まるで萎れた花のようだった。だがそんな状態でも能力者は恐ろしいのか、海賊たちは近寄っては来ない。やがて松明の列が割れ、一見して雑魚とは違う壮年の男が現れた。
「おまえたち、その女の部下か。」
体格はゾロと変わらず、その声音は穏やかですらあった。
「違う。だがてめェらがこの女をどうするつもりか興味はある。」
壮年の男はゾロの言葉には頓着せず、もう一度聞いた。
「麦藁の一味か。」
「だったらどうした。」
男は、温厚な声に似合わぬ冷たい目で一歩踏み出したサンジを見た。
「食料も宝も一切合切持ち出されている。もちろん後で取り戻すがな。だからといってその一味をここで見逃すほど甘くはないんだ。死んでもらおう。」
背後の海賊たちは無言で銃を構えた。サンジは大げさに両手を挙げて見せた。
「まあ待てよ、俺たちを殺そうとしたこの女がこれからどうなるのか、教えてくれないか?心残りで成仏できねェ。」
「もちろん、残った宝の在処を聞き出す。すぐには見つからねェ場所に、一番すげェのが隠してあるもんだろ?素直に言えばよし、言わなけりゃ多少つらい目をみるが・・・どのみち最後は魚の餌だ。これで満足か?」
ゾロが頷いた。

「命の恩人に手荒なマネはしたくなかったがな。お互い海賊だ、恨みっこなしでいこうや。」
三刀流の構えに、海賊たちが激しく動揺した。口々に海賊狩り、賞金首、と叫びだしている。その反応に幾分ムッとしながら、サンジもモンタナをかばう位置に出た。
「あんたのとこのコック、いい腕だったぜ。レシピが聞きたかったが残念だ。」
うろたえる部下たちに、男は攻撃の命令をくだした。数で勝てるとふんだのか、銃が強気にさせたのか。その判断がこのうえない誤りであったことを、男は5秒後に知ることになる。


 最初の銃弾が発射されると同時に、縦横無尽に振るわれた剣が、弾をことごとく地に落とした。その後ろから飛び出した黒いスーツ姿が、信じがたい破壊力で海賊たちを打ち倒していく。一度の蹴りで何人もが地面に倒れ、松明が砕け、大気が血で染まる。海賊団の副首領は、動かなくなった部下たちの間をこちらへ真っ直ぐ歩いてくる若い男を呆然と見た。
「ま、まるで・・・赫足の・・・」
言い終わる前に黒いつま先がその顎を捕らえ、男は頭から地面に叩きつけられた。

「気安く呼んでいい名前じゃねェんだよ。」



戻る次へ