チョッパーはサンジの首の傷を手早く消毒すると、少し迷って包帯をテーブルの上に戻した。
「すごく浅い傷だから、このままでも化膿はしないと思う。」
「ああ、大丈夫だって。ありがとな。」
キッチンの窓の外を星が流れていく。追い風で、船は順調に次の島へと進んでいた。
「じゃあ俺はもう寝るよ。サンジは?」
「スープ仕込むから、もうちっと起きてるよ。おやすみ、チョッパー。」
「おやすみ。」

 チョッパーと入れ違いにゾロが入ってきた。

返り血を洗い流してきたゾロからは、なんとなく不似合いないい香りがただよってくる。
「てめェ!ナミさんのボディーシャンプーつかいやがったな!」
胸倉をつかまんばかりの勢いでサンジが詰め寄った。
「しょーがねェだろ、空だったんだよ。酒よこせ。」
「腹巻きに飲ませる酒はねェ。」
くるりと背を向け、サンジは鍋に水をはった。鶏ガラの血を洗い流して鍋に入れ、ふたをして弱火にかける。もう夜中だが目は冴えていて、コース料理すら作れそうな気がしてくる。
 ゾロを見ると、勝手に酒とグラスを出して飲み始めていたが、それはサンジがわざと目につくところに置いておいた安ワインだった。グラスは二つでている。無言で差し出されたグラスを、サンジも黙って受け取り、向かいの椅子にかけて色の薄い赤ワインが注がれるのを見ていた。


 クルーたちはもうみんな寝てしまったのか、船の中は静まりかえっている。やがて、ゾロの手がテーブル越しにサンジの首の傷に触れた。撫でるでもなく、つかむでもなく、ただ触れて息をつく。思っていることが、なんとなくサンジにはわかる気がした。


 料理人としてのサンジにゾロは決して踏み込んでこない。サンジがたとえ命を落とすことになっても、それが料理人としての本分に根ざしたモノであるなら、何も言わずに見届けるだろう。
 その強さがふと悲しくなり、サンジは首にあてられた手を取ると、すこしガサついた指先を噛んだ。



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