「神が恐怖なのではない」
異能。ヒトの限界を端から持ち合わせぬヒトを超越した
神を名乗る男。
「恐怖が神なのだ」
そこに救いも奇蹟もなく。
「吠え面、かきやがれ」
二度目の電撃をくらい、サンジは倒れ伏した。体はもはや生きることを諦めかけている。
周囲の状況を把握するどころか、時間の感覚さえもどこかに置き去りにしてきたようだ。
いったいどれくらい経ったのかわからないまま、微弱な電流を流されて、停まりかけていた心臓が脈打つ。
「……起きろ、青海人。」
エネルの声がする。
“神”の声が。
「テメェ……まだ生き……やがっ……」
回らぬ舌で言いかけた彼の顎をエネルの右手がつかんだ。そのまま持ち上げられ、やがて足の先が床から離れた。
全体重がかかった顎の骨から、ミシミシと音がする。
「よくもわが還幸を邪魔してくれたものだな……。これほどの怒りは初めてだ……。」
圧倒的優位であった頃のとぼけた表情はかけらもなく、エネルは底光りのする目でサンジをにらみつけた。
感情を制御できずにいるのか、常にパリパリという音とともに電流が彼の周囲をとりまいている。
「いたぶりつくしてやる。あらん限りの恥辱と絶望と、従属する快楽を教えてやるぞ。」
ゆがんだ口元には狂気の影。
サンジは床に投げ出された。体のぶつかった部分が痛み、思わずうめき声をあげる。
そんな様子を見て、エネルの口元には笑いが浮かんだ。
恐らくは鉄雲でつくられたのであろう雲の環が、サンジの両足首と両手首にはめられた。
自由を奪うに足る重さがあった。こんなことをせずとも、今のサンジに抵抗するだけの力は残っていなかったが。
あるいは、己の無力を徹底して思い知らせようという残酷な“神”の意思がそこにあったのかもしれない。
エネルは大の字に横たわるサンジから、雷撃に耐え切れずぼろきれになった服の残りをきれいにはぎとった。
目的がわからずされるがままになっていたサンジは、次にエネルが取り出したものを見て目を見開く。
「まずは<これ>だ。青海人、ああ名前なんぞは言わんでもいいさ。お前には必要なくなる。」
まるで革のような質感の首輪。
しなやかなそれは、エネルの手によってサンジの首に巻きつけられた。
微妙な違和感が、なぶり殺しにされるのだろうと思っていたサンジを少なからず混乱させる。
“神”の手は、首輪をつけ終えたあともサンジの肌から離れず、鎖骨から胸、腹へと移動していく。
ただ撫でるのではなく、かすかにピリリと感じる程度に放電しながら動き続ける手は、やがて下腹部にとどいた。
「……っ!な、にす……ああああああ!!」
いきなり陰茎を握られ、電流を流されてサンジの体は激しく波打った。
「ううあああっ!あ、ああうッ!」
常ならまだしも、弱った体に鉄雲の重りは充分枷として通用し、サンジは制止の言葉を口にする余裕すらなく唯一自由になる頭を左右に振った。
「このくらいの刺激では、まだ私にたてついたことを後悔はしないだろう。久々に楽しめそうでワクワクしてるんだ。簡単に音を上げてくれるなよ……」
エネルに眼をのぞきこまれ、失神寸前のサンジの全身に鳥肌が立った。
蛇が獲物を絞め殺すときの目。
すぐに飲み込むことをせず、獲物が足掻く様をじっくりと眺めている、冷たい喜悦に満ちたあの目。
「狂ってやがる……」
ほとんど声にならないつぶやきだったが、エネルは理解したらしい。
「結構結構、本気で楽しみになってきたぞ。その反抗的な口で私に奉仕させるのが、な。」
サンジの唇を割って、太い指が二本ねじこまれた。口腔内を蹂躙するそれに噛み付いたとたん、指は雷に変わった。
サンジは、今度こそ意識を失った。